よし言ってみろ。 そう言うと、幸村が力強い声で叫んだ。「この日の本で一番強い男はお館様でござる!!!」 館全体にこだましそうな声だった。 政宗はぐったりとした目で幸村を見る。あからさまな落胆の顔に、幸村は酷く困った様子で慌てて言葉を紡いだ。 「あっいやっその、も、申し訳ござらん!」 「いや、いい。よーっくわかったぜ」 そもそもこの男になんとか自分の方が凄いのだと言わせようとしたのが間違いだった。言葉で褒め称えられたところで、勝てなければ何の意味もないし、何の悦びもないのだが、それでも一度くらい言わせてみたかった。 無理だとわかった上での話だったので、さほどの落胆はないが、こうも力一杯で言われると疲労感を増す。 「Okay、わかった。次のtargetは甲斐の虎だな」 「え」 投げやりにそう言うと、幸村が驚いたような顔をした。 「俺が勝ったら俺が日の本一だ。そうだろ?」 にやりと笑ってそう言えば、幸村はじっとこちらを見つめてきた。真剣な眼差しは、逸らされる気配がない。まっすぐこちらを見据える目は、獲物との距離をはかる獣のようだ。 「政宗殿、お館様の前にはこの幸村がおりますぞ。決してお館様までたどり着けませぬ」 「ha!面白いこと言うじゃねぇか」 「真のことでございますれば」 妙な自信だった。一体何を言ってやがる、と瞬いた。面白い。 「All right,テメェも虎も、全部俺が呑み込む」 「させませぬよ、この幸村、必ずや政宗殿を倒してみせまする」 「でっけぇ口叩きやがって」 「政宗殿が、お館様を倒すなど許しませぬ。政宗殿は、某と戦っておられればよい」 幸村の言葉に、政宗は目を剥いた。今度こそ本当に、何を言ってやがる?と眉を顰める。 「なに?」 「お館様には、渡しませぬ」 「おい、何言ってんだ?頭に血ィのぼりすぎちまったか?Redoutはいただけねぇぜ」 「政宗殿は」 ずい、と幸村が膝を進ませてきた。近くなった幸村の表情は真剣そのものだ。 「某のものでございますゆえ」 「……へぇ」 驚いた。 絶対忠誠で誰かに降るなどありえないだろうこの男が、唯一見せた、これは不穏な陰。 戦いたくてしょうがない、この獲物だけは誰にもやらない。 なるほど、この男もそう思っているわけだ。そういう意味で、二人の思いは通じている。 「おい、ちょっとこっちに来い」 「?」 幸村がさらに顔を近づける。腕を伸ばすと、幸村の髪を引いて己の方に倒れるように仕向ける。なんの抵抗もなく、幸村が政宗の胸元あたりに顔面をぶつけた。非難がましい目がこちらをむいた。 にやりと笑って、言ってやる。 「耳を澄ませろ、俺の心臓はここだ」 薄く微笑んで、幸村がこたえる。 「もとより、聞こえておりますれば。政宗殿」 ああやっぱりそうだなぁと政宗はおかしくなった。 幸村が欲しいのは、彼を自分の家臣にしたいとかそういう話ではない。召抱えたいとかそういう意味ではない。そんな生易しいものではない。 心臓を奪い合い、その血を血で塗り替える。 そんな相手を幸村に求めるのであって、欲しいのは忠誠とは違うのだ。 満足げに実感した。
春になったら、戦いを始めよう。 |