駄犬五題 「待て」ができない |
「wait」 言った後にこの言葉では幸村に通じないことに気がついたが遅かった。あっという間に形勢逆転されて、しっかりと政宗の身体の上で馬乗りになっている幸村が見える。 「今なんと?」 いかにも我慢できません、という様子で幸村が顔を近づけてきた。 「待てって言ってんだよ」 「待て、がうぇ…。ん?もう一度言っていただけませぬか」 「wait、今の状況ならstopでもいいな」 「うぇいと、でござるか。覚えておきまする」 そういいながら、今は待つ気がないらしい。幸村の指が随分慣れた手つきでするりと着物の下に入ってきたのを感じて、政宗は思わず眉を顰めた。 そういうことを幸村が覚えたのは全部政宗相手なのだが。慣れて上手になってくるのも、される側としては嬉しい限り。快楽は大きい方がいい。溺れられるくらいの方が、自分の趣味にあっている。 だが今はとりあえず「待て」と言っているのだ。快楽に溺れている場合でもない。 「聞けよ、おい」 「無理でござる」 「随分あっさり言うじゃねぇか。今日は気分じゃねぇって言ってるだろ?」 「嫌でござる。明朝には政宗殿は奥州へ帰られるのでござろう?」 「わかってんじゃねぇか」 幸村の唇があちこちに触れてきている。降ってくるそれはほとんど触れるだけのものだ。幸村なりに遠慮をしているのかもしれないが、この段階でそれは生殺しだ。どちらかというとこれは、焦らしてこちらの理性を飛ばそうとしているのではないか。 「明日からまたしばらくお会いできないならば、出来る限り触れていたいというそれがしの気持ちも汲んではくださらぬか」 「汲めねぇって言っても我慢できねぇだろ」 「できませぬ」 「…まったくテメェはもう少しな」 「……」 「挑発するならもっと大胆にいけよ?」 言った瞬間、幸村の唇を貪るように口付けた。とっさのことに幸村が目を瞠る。しかしそれも一瞬で、すぐに勢いを押し返すような口付けを返された。ざらりとした舌の感触。お互いの中で何かが弾けたような気がした。 直接肌に触れていた幸村の指が、遠慮なく着物を剥ぎ取る。それと同じように、政宗も幸村の着物を剥いだ。 それでふと、気づく。 待てが出来ないのは俺もか…? 気がつくとおかしくて、幸村に抱きついて笑った。 |