知ってる。




「納得がいかねぇ」
 そう言われて幸村は行為の最中に放り出されてしまった。
 それまでは政宗も気持ちよさそうにしてくれていたと思ったのだが、唐突に気持ちが遠ざかった。
 時々ある気まぐれで、そのたびに幸村はしょんぼりと叱れた犬のように俯いてしまう。
(それがしの何がいけなかったのでござろう…)
 首筋に噛み付いたところ?
 でもその時はくすぐってぇとか痕がつくだろと言いながら、政宗の声音は嬉しそうだったし、そもそも拒絶はされなかった。
 だからこれは大丈夫。
 政宗も幸村の肌によく痕をつけるし、おあいこだ。
 じゃあ一体なんだろうか。
 しつこいくらい口付けを繰り返したことだろうか。確かにその時はしつこいぞと頭を軽く叩かれた。
 ただ、そうしてきた時に幸村は申し訳ないと謝った。そもそもその後に口付けを強要してきたのは政宗本人で、なんだ良かったのかと思った。
 政宗は時々そうやってこちらのやることを咎めるが、かといってそれでは足りないというような反応をすることがある。
 幸村にはよくわからない。
「…政宗殿」
「うるせぇ」
「それがし、あまり焦らされるのは好きではござらん…」
「ha,そうかよ」
「一体何が気に食わなかったのでござるか!」
 しかし政宗は答えようとしない。はだけた着物もそのままに、肩膝たててそっぽをむいている。いっそ無理やり襲いかかってなし崩しに何とかしてやろうか、とも思うが、そういうのはあまり幸村の気持ちがのらなかった。
 何しろ、あの政宗が、全身から稲妻のようなオーラを発する彼が、こういう時だけ自分の中にある焔のようなものに食われようとする。
 いつもあのオーラで壁を作っている彼が、全身で尖っているような彼が、熱に溶かされようとしてくれる。それを感じるのが幸村は好きだった。
 だから無理やりとかなし崩しとか、そういうことは嫌だった。
 嫌、なのだけれども、身体的には相当きつい。
「政宗殿」
「俺ァな、この奥州の主だぜ」
「さようでござるな」
「その俺がだ」
「?」
「真田幸村のいいようにされるってのが納得いかねぇ…!!」
「…まさむねどの?」
「納得いかねぇんだよ!」
「し、しかし政宗殿!それがしむしろ政宗殿にいいようにされているのだがっ」
「どこがだ!俺をこんだけいいように弄びやがって!」
「そ、それは何だか破廉恥でござる政宗殿ォォォ!!」
「破廉恥上等だァ!真田幸村。テメェどう落とし前つける気だ!!」
「どうすればよいのでござるかぁぁぁ!!」
「知るか!」
「そ、それがし政宗殿のこと恋焦がれておりますぞ!今も政宗殿が嫌がるから何とか我慢しておりますれば!」
「俺だってなぁ続きやりてぇんだけど納得がいかねぇもんはいかねぇんだ!」
「そんなものに今はこだわらないでくだされ政宗殿ォォォォ!!」
「ちくしょおおお!!!もういい続きだ続き!」
「よくわからないでござる政宗殿!!」

 そこで政宗が飛び掛るように幸村に密着した。だから後はもう、続きをするだけ、なのだけれども。
 政宗は幸村が自分を弄んでいるという。
 とんだ被害妄想だ。
 幸村からしてみれば、政宗の方こそ幸村を弄んでいるではないか、とそう思う。
 伝わってないのだろうか。だがこうやって肌をかさねている時、政宗は熱に浮かされたように幸村の名を呼ぶし、幸村だって同じだ。同じ数だけそうしている。
 そうした時の政宗の表情は幸村には言葉に尽くせないほどだし、逆もまた同じだろう。
 だから幸村は、いざ続きを、という前に、政宗の肩を強く掴み、真正面に見つめあって言った。

「それがしは、政宗殿のこと、本気でござる」
「ah-...okay,俺もだ」

 そう言った時、政宗がどことはなしに照れくさそうに視線を逸らすので、幸村はその顔を両手で固定して、決して目を逸らさないように至近距離でもう一度。

「本気でござるよ!!」
「わかってる知ってるもういいから続きだ!」

 幸村は笑って頷いた。
 知ってる、と政宗がそう言ったことが、妙に嬉しかった。



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唐突にかきたくなったので書きなぐり。主導権とられてて悔しいらしい。